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社労士業の実態③ 「うちは従業員5人だし、揉め事なんてないよ」……その慢心が、ある日突然「数百万円の請求書」に変わる理由

「うちは家族みたいなもんだから」「労働トラブルなんてニュースの中の話でしょう」。

そう仰る経営者の方にこそ、知っていただきたい現実があります。労働相談は、事件が起きてから始まるものではありません。日々の「小さな勘違い」の積み重ねが、ある日限界を超えて爆発するのです。

現場で私たちが見てきた、「無自覚な法違反」の典型例を挙げましょう。

1. その「固定残業代」、算数として成立していますか?

例えば、月給30万円の社員に「別途、固定残業代40時間分として2万円払っている」というケース。 これ、計算するまでもなく一発アウトです。

  • 最低賃金割れの恐怖: 30万円の基本給があるなら、時給換算すればそれなりの額面になります。その人の40時間分の割増賃金がそんな少額で収まるはずがありません。そもそも2万円を40時間・1.25倍で除してみてください。400円です。令和8年現在で全国に400円以下の最低賃金を下回る知識はどこにもありません。

  • 「無効」と判断されたら: もし裁判や調査でこの2万円が否認されれば、過去2〜3年に遡って「本当の残業代」を全額払い直すことになります。その額、1人あたり数百万円にのぼることも珍しくありません。

2. 「有給休暇」に会社独自のルールを設けていませんか?

「うちは繁忙期の12月は有給禁止」「連休に繋げるのはNG」「理由を言わないなら許可しない」。 経営側の言い分も分かりますが、これらはすべて労働基準法違反です。

  • 時季変更権の誤解: 会社には「時季変更権」がありますが、これはあくまで「事業の正常な運営を妨げる」極めて例外的な場合にのみ認められるもの。「忙しいから」は理由になりません。

  • 理由は自由、取得も自由: 有給休暇の利用目的に会社が介入することはできません。「私用のため」で十分。独自ルールを押し通していると、従業員の不満はマグマのように溜まっていきます。

3. 「社会保険・雇用保険」の未加入は、会社を滅ぼす借金と同じ

「本人が入りたくないと言っているから」「うちは少人数だから」と、加入条件を満たしているのに保険に入れないケース。これは**「違法なコストカット」**です。 後から年金事務所の調査が入れば、最大2年分を遡って社会保険料が徴収されます。従業員負担分も会社が立て替える羽目になり、キャッシュが一気に吹き飛びます。

4. 「解雇予告手当を払えば、いつでもクビにできる」という大誤解

「1ヶ月分の給料を払うから、明日から来なくていい」。これが通用するのはドラマの中だけです。 日本の法律では、解雇には「客観的に合理的な理由」と「社会通念上の相当性」が必要です。予告手当を払ったからといって、解雇そのものが有効になるわけではありません。安易な退職勧奨や解雇の乱用は、不当解雇として訴えられる最短ルートです。

5. 「経費」という名の手渡し金は、脱税とみなされます

雇用関係のある従業員に対し、冠婚葬祭でもないのに経費名目でお金を渡す行為。これは「給与逃れ」であり、所得税法違反です。 税務調査が入れば、源泉徴収漏れとして追徴課税の対象になります。「人(労務)」と「金(税務)」の両面から、会社に致命的なダメージを与えます。

6. 杜撰な「勤怠管理」は、無抵抗で戦うようなもの

タイムカードがない、出勤簿がメモ書き……。「信頼関係があるから」という言い訳は、紛争時には「会社側に証拠がない」ことを意味します。 従業員が独自に記録していた「居残りメモ」がそのまま正解として採用され、言い値の残業代を払わされる。これが現代の労務紛争の恐ろしいリアルです。

結び:社労士への依頼は「保険」ではない、「経営の精度」を上げる投資です

「相談することがない」のは、平和なのではなく、**「リスクが見えていないだけ」**かもしれません。

社労士が関わる価値は、単なる計算・書類作成代行ではありません。 顧問であるからこその日常の何気ない会話の中から、「その給与体系、危ないですよ」「その勤怠の付け方だと、調査で突っ込まれますよ」と先回りして警笛を鳴らすことにあります。

「うちは5人だから大丈夫」ではなく、「5人の大切な組織を壊さないために」、一度プロの目で足元を点検してみませんか?